現在世界ランク10位で4大大会優勝を2回も果たしたプロテニスプレーヤー大坂なおみ選手が、全米オープンを見事に制した。1回戦から黒いマスクを着用して登場する姿は説明の必要がないが、黒人差別への抗議を勝ち進むことで世界中に知らしめる姿に、確固たる信念と秘めた実力を見る事が出来る感動的な勝利であった。
大坂なおみ選手の抗議
8月26日ウエスタン・アンド・サザン・オープンに準々決勝まで勝ち進んでいた大坂選手は、準決勝戦を棄権表明。
同月23日アメリカのウィスコンシン州で、警察官が黒人男性を銃撃した事件に対する抗議意思であった。
しかし棄権表明は、その後ほどなく撤回し、準決勝エリーズ・メルテンス(ベルギー)戦に臨んだ。
大坂選手の冷静な撤回に拍手
白人警察官が黒人男性を銃撃した抗議活動は、大坂選手だけでなく、メジャーリーガー達もボイコットで臨んだ。
そんな中、一度表明した棄権意思を撤回した大坂選手の思いはどうであったのかを考えてみた。
「ブラック・ライブズ・マター」の抗議活動は、黒人だけでなく、白人や黄色人種まで、世界中の多くの人々に及んでいた。
父にハイチ人、母に日本人を持ち、黒人のDNAを持つ大坂選手は、先頭に立つ気持ちで抗議したのです。
大坂選手の棄権撤回は、世界中の黒色人種が落胆するであろうし、逆鱗に触れる可能性もあったはず。
彼女は危険を承知で、準決勝戦を撤回した理由は、大会関係者やプレーを心待ちにするファンに配慮したのです。
高ぶった気持ちを押し殺し、冷静に棄権を撤回して準決勝戦に臨んだ大坂選手の冷静さに拍手を贈ります。
大坂選手の秘めた思い
彼女はウエスタン・アンド・サザン・オープンを、是が非でも抗議意思を示す棄権をしたかったでしょう。
でも棄権を撤回した大坂選手は、その思いを胸にしまい、撤回以上の意思表示をすると心に誓ったのです。
大坂選手の気持ちは揺るがなかった
今やインフルエンサーである大坂選手は、棄権撤回で落胆する多くの黒色人種に誓う行動を考えました。
今ここで棄権による行動よりも、より強い抗議意思を示し、多くの黒色人種の気持ちに報いようと。
ウエスタン・アンド・サザン・オープンの後には、テニス世界四大大会の全米オープンが控えている。
そこで勝ち進むことで、大坂選手は、心の底から湧き出る魂を表現して理解してもらうと考えたのです。
全米オープンで見せた姿
初戦から7回勝ち進むと優勝トロフィーが授与されるトーナメント戦に、彼女は7枚のマスクを用意しました。
コートに姿を現す大坂選手が着用する黒いマスクには、白い文字で人々の名前が記載されていました。
初戦はブレオナ・テイラーさん、2回戦はエライジャ・マクレインさん、アマッド・アーバリーさん、トレイボン・マーティンさん、ジョージ・フロイドさん、フィランド・カスティールさん、タミル・ライスさんの名前でした。
白人による黒人差別が根底にあり、迫害された人々の名前を印刷したマスクを着用してコートに現れたのです。
迫害差別で命を落とした黒人はもっと多くいるので、7枚のマスクでは足りなかったと言います。
7枚のマスクに記された人々の名前は、任意に選ばれただけで、大坂選手は全ての迫害者を報いたかったのです。
大坂選手の凄さ
大坂選手は「一人のテニスプレーヤーである前に、一人の黒人女性として考えるべきことがある」と言いました。
私達日本人は、生まれながら兼ね備えた「肌の色」で、極めて厳しい差別を受ける体験をしたことがありません。
でも欧米先進国では、「肌の色」の違いによる差別を、今もなお受け続けている事がアメリカの事件で判ります。
世界各地に残る「肌の色」差別を、世界的テニスプレーヤー「大坂なおみ」は訴えようとしたのです。
どんな競技でも、それが世界レベルになると、強い思いだけでは、到底勝ち進むことができない次元に入ります。
でも大坂なおみ選手は、世界四大大会の全米オープンを見事に制し、秘めた思いを表現したのです。
自身の強い思いを勝ち進むことで表現するには、世界的な実力がなければ出来ない事。それを知らしめたことが大坂なおみの凄さです。
大坂なおみ選手を応援したくなる
もう一度記述しますが、大坂なおみ選手は、ハイチ人の父と日本人を母に持つハーフです。
彼女は大阪市中央区出身ですが、だから「大坂」姓を名乗っているのではない事をご存知でしょうか。
お母さんのお父さん、大坂選手のお爺さんは北海道の人で、「大坂鉄夫」さんと言う人です。
昨日もお爺さんである「大坂鉄夫」さんは、テレビ局のインタビューにコメントを寄せておられました。
ハイチ人と日本人のハーフである大坂なおみ選手の風貌は、どちらかというと黒人に近いものを感じます。
出自を聞くことがなければ、純粋な黒人かと思う人が多い中、彼女は「大坂なおみ」と名乗っています。
大坂なおみ選手は、国籍と名乗る名前を決める時、究極の選択を迫られたのかも知れません。
ハイチ、日本のどちらの名前を名乗っても、それは彼女の自由ですが、日本名を採っているのです。
名乗る名前を選択する時、どんな葛藤があったのでしょうか。多くの日本人には理解できない事です。
そんな大坂なおみ選手の活躍を、私は大いにリスペクトし、ハイチとの絆を感じずにはいられなくなりました。